災害で運休が続いている美祢線(厚狭~長門市)は、鉄道事業者のJR西日本側としては、山口県側が破損した河川を自腹で復旧させることを前提にしており、受け入れない場合は、鉄道とは異なる公共交通への転換を主張している。ま、端から見てJRは廃線にしたいってことだろう。
かつては沿線自治体との協議もままならない状態だったが、国が定めた法定協議会(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律)の施行に伴い、互いが廃線を巡ってギスギスしあうのではなく、政府主催のもと、交通モードの再構築をアシストし、そのもとで多角的な交通手段を検討・議論・実証しあうことで、証拠を集めて結論を見いだすという仕組みが生まれた。
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現在、JR西日本と山口県が行っている政策は、表向きはバス輸送の改善だが、それにこだわった取り組みを続ける以上、「バスの方が利便性が高く、鉄道方式では百害あって一利なしだから、決定的な証拠が集まり次第、美祢線に対して戦力外通告を言い渡す」というのを目論んでいる。
ではなぜ、JR西日本は頑なに美祢線を戦力外にしたいのかというと、単純に言えば「輸送力は絶望的に少ないが、かといって山陽・山陰の連絡を無くしてしまうと不便だから」。会社側の主張としては、
- 河川修復工事が行われた後、鉄道方式で復旧する場合は、約58億円以上。復旧工事は着工から約5年後。河川修復工事「後」なので、復旧できることを約束できるものではない。
- 2022年地点での平均輸送は、1日あたり377人なのに対し、収入が0.5億円・費用がマイナス5.2億円、関連経費も含めた営業損益はマイナス5.5億円と、赤字にも程がある。
- 国の災害復旧補助制度(鉄軌道整備法改正)を使えば、政府から補助が出るものの、事業の構造を見直せば補助の割合を引き上げられる。
厚狭と長門市の間が完全に分断されると、山陰の主要地である長門市・東萩から山陽へ抜ける手段が大幅に削減され、本当の意味で交通弱者が生まれて孤立してしまう。でも、自治体の言い分である鉄道方式を丸呑みすれば、維持費がとんでもなく掛かるので無理無理。なら、現在行っているバス輸送を恒久化しつつ、より現状に見合った輸送モードに切り替えることで妥協点を見いだそうとしている。
鉄道からバス輸送に転換された路線としては、JR九州の日田彦山線BRTがある。これはストレートで廃線とすると筑豊⇔筑後・大分県西部との連絡が困難となり、余計に不便になるものの、鉄道方式となれば沿線自治体がカネ出さないと無理無理、というJR側の考えが発端となっている。これも沿線自治体の猛反発で何度も空転したが、結局、福岡県側も介入する形で折れ、眼鏡橋にバスを走らせるという奇策も加わって、見事「復活」している。
日田彦山線BRTの面白いところは、JR線の概念を廃止しなかったこと。つまり、日田駅等で購入できるJRきっぷを購入すれば、表面的にはバスに変わって違う交通手段になっているはずが、実際には普通にJRの列車に乗る感覚で連絡運輸が出来る仕組みを継承している。一部、きっぷのルールに鉄道とは異なる例外もあるが、鉄道時代とほぼ同じ輸送体制を堅持できているあたり、日田彦山線BRTが一定の評価を受けるのも頷ける。
バス転換を前提とした取り組みを強化しているあたり、鉄道としての美祢線は戦力外通告としつつ、事実上の「育成選手」として、路線バス転換で客が求める利便性追求を行う姿勢で対処するのが現実的である。
私としては、社会実験で行われている快速便をそのまま恒久化するのが、最も腑に落ちる。その上で、沿線から要望があれば、それに対応できるかどうか議論すれば?
心ないイコ駅長による、現実的な美祢線(路線バス)提言
ダイヤ・連絡運輸等
- 基本的には、社会実験として実施されている快速便をそのまま継承。
- 本来はバス転換によってJR線が分断されるが、厚狭駅と長門市駅との間を途中下車しない限り、特例として在来線乗車券で乗車できる制度を作る(新幹線のりつぎは対象外)。
- 陰陽連絡線としての役割は堅持しつつも、周辺人口や社会情勢・集落を含めたアクセスポイント等を考慮するため、概ね、1時間1本程度の割合で運行。通学客に配慮するため、途中の美祢駅を境に運行系統を変える(通勤・通学時に限り、「厚狭~美祢」と「美祢~長門市」とで分割。それ以外は一本通し)。
- バス輸送に切り替える以上、ICOCA定期券・ICOCA乗車券での乗車に対応。必要ならば、WESTERアプリを活用したMaaSも視野に入れる。
- 鉄道路線を活用したバス専用道路復帰に関しては、並行する国道316号の整備状態が非常によく、殆どの場所で速度低下の影響を受けないことから、基本的には採用しない。