新型ウイルスCOVID19の蔓延に伴い、料金所リスクを軽減するためにETC専用化へ舵を切るという話。実はETC専用化の話は、何も今に始まったことではない。高速道路会社が発足した2005年頃から、首都高速を中心にETC専用化を実現するための構想は存在したものの、当時はETC車載器の普及率が今以上に少なかったことから、「構想が出てきては消滅」が繰り返されてきた経緯がある。
今回はCOVID19蔓延に伴う料金所職員の負担軽減をはじめ、政府が考える新しい生活様式への提案の一つに掲げられた、極力キャッシュレス社会を構築するための対策の一環として、この機会にETC専用化を目指す。今までは何度も計画倒れに終わって未遂が続いたが、COVID19の蔓延が懸念される中で、手動かつ対面式での現金等のお支払いにはリスクを伴うという口実が出来たことから、実現の可能性は極めて高い(出来たらいいな~レベルじゃなく、国策を掲げてのガチンコ)。
国土交通省(政府)の考え方
国土交通省が考える完全ETC専用化の考えとしては、上述の審議会で公開されている資料の通りである。
- ETC利用率は90%超しているが、現在は一般レーンが混在して問題である。
- 間違ってETCレーンに非・ETC車両が入ってきた時に排除が難しい。一応、事後徴収システムの整備・構築は考えているが、自動二輪や軽自動車は車両情報を直接引き出せないため、手間が掛かる。
完全ETC専用化への道
利用者情報は必ずしも一致しない
車載器に記録された車両情報と、ETCカードを挿入した時の個人情報は、高速道路を利用したドライバーの情報と一致している訳ではない。例えばレンタカーや仮免許による高速教習・牽引車両などはカードの持ち主さんと車載器の情報とドライバーさんは別だし、「運転代行したんだから、ワイのETCカードを使って(代行依頼した人が責任もって通行料を負担する)」という形で別名義のETCカードを利用する、といった使い方が考えられる。
ETCシステムを構築するときに、車載器にも個人情報を書き込み、ETCカードの名義人(利用する本人)と合致した場合に限り、ETCを利用できるようなシステムにするべきだった(利用できても「ゲスト・オーサー扱いとなり、ETC割引などの特典が受けられないようにする、などの案)が、諸般の事情でそれはお流れになっている。
国土交通省の案としては、間違って非・ETC車両が入ってきた場合の検問を強化することにしているが、この時に車載器と利用者の情報が完全に一致しないと利用できないようにするべきかどうか、考案する必要があるだろう。
料金所職員のコストカットに繋がるという俗説
ETC専用化を巡って、Twitterなどで散見された意見に「料金所のおじさんたちが可哀想だ」「料金所を運営しているからコストが掛かるんだ、だから無人化してその分を通行料引き下げに充てるべきだ」という声が目立った。
結論から言えば「そういう意見もあるが、正直、料金所を撤廃しても米粒以下のコスト削減にしかならない」である。上記はNEXCO西日本のCSRレポートに公開されていた、通行料金の使われ方に関するグラフだが、料金収入が約7,800億円入るのに対し、維持管理に必要な費用は、毎年約2,200億円。このうち、大半は道路のメンテナンスの方に回されるため、料金所の運営は約100億円に届くかどうかの次元だと聞いている(改めてNEXCOに聞いてみようかと思ってるが、多分、ソレだと思う)。
仮に料金所をETC専用化して100億円削減できたとしても、全体の収入が約1兆円なので1%程度しか削減できず、通行料に転換したとしても、今のキロ単価24.6円が24.5円にしかならない。また、この維持管理の費用は高速道路会社やその関連会社の給料にも支給されるため、言い換えれば約2,200億円が無くなれば無料化という名の無法地帯になってしまう。
この俗説は公団民営化の時に、執拗なまでに旧JHファミリーの不透明な経営がメディアを通じて報じられたことも原因になっている。JHファミリーも今のNEXCO関連会社も、透明さが改善されただけで中身は全く一緒。料金所を撤廃すれば通行料が下がるというのは、ハッキリ言って、筋違いである。
国土交通省や政府は高速道路運営の現状を丁寧に説明し、メディアもウケ狙い的にフェイクを垂れ流すことはせず、誤解を招く主張はしないように。(客観)
一番の問題点は「低頻度利用者に対する措置」
www.go-etc.jpwww.airia.or.jp ETC専用化が実現出来ない理由は、単に車載器だけの問題ではない。一番の問題点は「ごくたまに使う人にしたら、別にETCなど要らない」という考えがあるからである。
確かにETC2.0を含めたETC利用率は1日あたり9割を超しているが、一方でETC車載器のセットアップと日本国内に流通している自動車の保有台数とを比較すると、実はETCの普及率は半分程度しかない。つまり、潜在的な現金利用者(殆どがチョイ乗りする近距離ユーザー)が存在しているのである。
これを撲滅するには、「現金は利用できない」と明確に宣言・官報などに刻んだ上で、現金等における低頻度利用者に対して、何らかのETCカードを頒布する必要があるのだ。
www.driveplaza.com 現地点で、国土交通省としてはETCパーソナルカードの発行における条件を大きく緩和する案を出しているが、現にNEXCO各社などで作るETCパーソナルカード事務局では、最初の預託金に必要な資金を最低4万円から2万円に引き下げている。2万円ということは上限が月1.4万円ということになるため、コレだけでも十分な範囲だが、パーソナルカードの弱点は預託金以上の使い込みに対応出来ない所。オーバーした地点で追加の預託金投入が必要になるし、専門サイトによる利用照会が出来るようになったとは言え、その設定が複雑で面倒臭いため、結局は「入口はETCレーン、出口は一般レーンで利用証明書を発行」といった物的証拠を残さないと分からない(筆者の体験談)。
となると、強制的にETC専用化するとなれば、
こうした対策を国土交通省やNEXCO各社などが打ち出さないと、高速道路ユーザーは納得いくまい。
Uターンスペースをどう確保するか?
現在の料金所はETC専用レーンはあっても、そこで通信エラーが生じた時に待避・説明報告後の強制転回がしづらい。特に二輪車と四輪車が交互にETCレーンを通過する場合、前方の四輪車がエラーを起こして一旦停止すると、慌てて二輪車が前方車両に激突し、後続車もよく分からずにそのまま二輪車に激突して重傷・死亡する事例が多発している。
一方、スマートICの場合は、初期型(例:須恵PA)を除けば全てUターン用の敷地が確保されており、通信エラーが生じて進入不能となった場合でも比較的安全に待避できるように作られている。
このため、完全ETC専用化の暁には、現在の一般レーンが直接料金を支払うために一旦停止するような従来の料金所を出来るだけ撤廃し、待避通路の整備や遠隔操作による検問所の確保などの対策が必要になってくる。
実施にあたってのタイムラインを考える
私が考えるETC専用化のステップは、この通り。
- まずは首都高速・阪神高速といった都市高速道路から実施。特に首都高のETC専用化は、民営化直後からずっと唱え続けてきた話なので、一番の張本人である首都高から率先して行うこと。同時に、二輪・軽自動車における自動車情報の照会作業を簡潔にするための法改正も行うこと。
- 都市間移動では、飛び地の状態になっているNEXCO管理の有料道路(小田原厚木道路・広島呉道路など)と、高速道路の閑散区間(中国道・戸河内~山口JCTなど)、沖縄自動車道、道東自動車道の十勝地方など、社会実験が行いやすい環境から実施し、住民や自治体の意見を参考にしながら問題点を修正していく。
- ETC専用に切り替わる路線に関しては、国土交通省・道路管理者・各自治体が積極的に広報活動を行うのと同時に、セーフティーネットとしてのETCカード(必要最小限のパーソナルなど)を全住民に確実に頒布するための手続きを行う。
- 概ね5~10年以内の完全ETC化を目指すが、その間までに前述の「安全にUターン・待避が出来る料金所の再整備」が必要。国土交通省(政府)主導で行うこと。
個人的な意見としては賛成。
COVID19に便乗する形で、ようやく完全キャッシュレスに切り替える方針が固まったが、ETCが出てきて20年以上も経過するのに、未だに現金等の存在があるのは確かに違和感がある。一方で、いざとなった時には一般レーンで対処する必要があるなど、まだまだ「アナログ」的な対処が根強く残っているのも事実。
個人的な意見としては、完全ETC専用化には賛成であるが、一方でETC不所持になった時のセーフティネットを確実に構築しない限り、納得いかない所もある。今後、どのようにして完全ETC専用化を目指すのかをしっかりと示し、実のある国民議論が起こることに期待したい。
「Go To ETC ONLY」の旅は、これからだ。