佐賀市と合併する前の旧・諸富町(もろどみ-ちょう)で、佐賀市役所諸富支所の隣には、かつて、国鉄佐賀線・諸富駅があったとされる。
諸富駅は、国鉄佐賀線の佐賀県区間では最も東に位置する駅で、ここを過ぎると、例の筑後川昇開橋を経て福岡県区間に入る。
1935(昭和10)年の開業当時は通勤・通学の足として幅広く利用され、1970年代までは味の素九州工場へ繋がる引き込み線を併設するなど、旧・諸富町の玄関口として広く活用されていた。しかし、国道208号の大川・諸富橋が開通した後は、徐々に自動車交通・輸送にシフトしていき、筑後川昇開橋が単線+橋桁が一定間隔で可動するという不利な条件も重なり、利用者は減少。地元からの陳情も空しく、1987(昭和62年)3月28日を以て廃止された。
廃線後、筑後川昇開橋は地元の有志によって守られ続け、一部の鉄道部品を再整備した公園に展示するなど、可動橋関連のは残されているが、それ以外の線路跡は遠慮無く道路に転換され、徐福サイクリングロードとして第二の人生を送っている。
諸富駅が工場への引き込み線が併設されていたことや、旧・諸富町にとって、行政・産業・鉄道交通の拠点として重要な側面を持っていたため、駅跡から国道208号へ通じる部分は、佐賀県道として認定・運用されていた(佐賀県道245号諸富停車場線)。しかし、その諸富停車場線も時代にそぐわない状態が続いたことから、2021年10月1日付で佐賀県管理から佐賀市に譲渡され、本当の意味で駅と主要道路を結ぶ役割は終えている。
諸富駅は国鉄特有の木造建築の駅舎だったようで、荷物輸送を取りやめた頃から無人駅だったという。ここに諸富駅があったというのは、支所前のモニュメントで確認できる程度で、全て道路転換ならびに諸富支所の建て替えに伴う周辺の再開発で、ほぼ当時の名残は確認できない。
南佐賀地区に設けられていた佐賀県道244号南佐賀停車場線も、同じ理由で戦力外に遭っている(こちらはもっと早く、2008年3月31日付で廃止)。執筆地点で旧・佐賀線時代の駅名(停車場線)が残った県道は、旧・川副町にある光法駅関連(江上光法S・大詫間光法S)の2路線のみとなっている。でも、現代人にしてみれば、「駅名が刻まれた路線なのに肝心の駅がない」と不思議に思われても仕方あるまい。